返されるやりの



「あっ。早くしないと、幼稚園バスが来る時間。めそめそしてないで、さっ、急いで。」

「え~ん……。ぼくのスモック~。」

頭から容赦なく姉の制服のスモックが被された。仕上げにぽんと、黄色の帽子を乗せられる。繰り返される朝の光景だった。

「いつまでもぴぃぴぃ言わないの。それと、おねえちゃんと呼ばずに「湊くん」と呼びなさいって言ってるでしょ。わかった?」

「え~ん……わかった~。湊くん~。」

困ったことに、姉のピンクのスモック(白い丸襟、お花の刺繍付き)は、禎克にとてもよく似合っていた。さらさらの明るい栗色の髪、大きな二重の禎克は、最近は売れっ子の子役のように文句なしに可愛い。
母も、逆ならよかったのにねぇと笑っている。大人たちは笑うが、禎克は真剣に悩んでいた。「女の子みたいに可愛い」と言う形容詞は、禎克にとって褒め言葉でもなんでもなかった。

お迎えの幼稚園バスに乗っている川俣先生は、毎朝繰りそんな姉弟の様子を、にこにこと笑ってみていた。

「おはよう、禎克君。今日もおねえちゃんに青いスモック、取られちゃったのね~。」

「う……ん。まけた~。」

髪をうんと短く切って、男児にしか見えない姉は快活に朝の挨拶をしていた。

「おはようっす!かわまた先生。」

「おはよう、湊(みなと)ちゃん。今日もかっこいいのね。」

「そんなこと、ないっすよ。つか、かわまた先生、髪型変えたんすね。めっちゃ可愛いっす。」

「や~ん……、湊ちゃんったらちびのくせに、男前~。先生、うっかりときめいちゃうじゃない。」

「湊、嘘は言わないっすよ。先生はまじ可愛いっす。」

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